労務管理、給与計算

労務管理、給与計算

労働時間の管理

会社にとって従業員の労働時間の把握は、円滑な事業運営をするための重要項目の一つです。過剰な長時間の労働になるようであれば本当に業務が効率的なのか、適材適所の人員配置が行われているのか等考えなければなりません。従業員の健康面での配慮も必要になります。また労働時間は賃金に直結しますので、人件費削減に取り組む会社にとっては決して見過ごすことのできない問題です。

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置

労働基準法には、

  • 休憩時間を除き、1週間について40時間、1日について8時間を超えて労働させてはならない。
  • 毎週少なくとも1回の休日、4週間を通じて4日以上の休日を与えなければならない。

など、労働時間や休憩、休日、深夜業等について規定を設けています。したがって会社には、タイムカード等で出退勤の時間を把握するなど労働時間の適切な管理が義務づけられているのです。 しかしながら、割増賃金の未払いや過重な長時間労働といった問題も生じており、会社が労働時間を適切に管理していない状況もみられます。このため、厚生労働省は平成13年4月6日「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置」という通達を発し、労働時間の適切な管理の促進をするための具体的な措置を公表しました。

  • 始業・終業時刻の確認及び記録

会社は、労働時間を適正に管理するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録しなければなりません。

  • 始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法

会社が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法によるもの。

★使用者が、自ら現認することにより確認し、記録
★タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録

  • 自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置

やむを得ず自己申告制により労働時間の記録を行う場合、会社は、次の措置を講じなければなりません。

★申告制導入前に、対象となる従業員に対して、労働時間を正しく記録し、適正な申告を行うことについての十分な説明
★自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか、必要に応じた実態調査の実施
★従業員の労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定するなどの措置を講じないこと。また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、その要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。

  • 労働時間の記録に関する書類の保存

労働時間の記録に関する書類について、労働基準法第109条に基づき、3年間保存しなければなりません。

  • 労働時間を管理する者の職務

事業場において労務管理を行う部署の責任者は、事業場内における労働時間の適正な把握等労働時間管理の適正化に関する事項を管理し、労働時間管理上の問題点の把握及びその解消を図ること。

  • 労働時間等設定改善委員会等の活用

事業場の労働時間管理の状況を踏まえ、必要に応じ労働時間等設定改善委員会等の労使協議組織を活用し、労働時間管理の現状を把握の上、労働時間管理上の問題点及びその解消策等の検討を行うこと。

 

タイムカードでの管理をお勧めします

やはり、客観的な形で労働時間を記録するためにはタイムカードやICカードによる方法が一番望ましいと思います。やむを得ず自己申告制とした場合にも定期的に実態と記録がかけ離れていないかチェックしたり、確認印を押すなどして管理すべきです。あいまいな記録を残してしまうと、退職後に未払い残業代を請求された場合、証拠能力として認められないなど、さらなるトラブルを招いてしまう可能性もあります。

 

残業についても申告制の導入を…

繁忙期や、突然の受注、業務の増大等でやむを得ず時間内に仕事が終わらず、残業をしなければならないこともあるでしょう。しかしその場合でも、従業員の勝手な判断でさせることはせず、必ず上司に申告し許可をとって行わせるべきです。その際には「○時まで」と時間を決めて行わせることをお勧めします。時間を決めずに仕事をさせると漫然となりがちで、能率も低下してしまいます。区切りを決めてその時間までにさせることで、時間管理も効率よく行え、また従業員の仕事の密度も向上させることができます。
なお、時間外や休日の労働をさせる場合には「時間外労働・休日労働に関する協定届」(通称「三六協定」)をあらかじめ労働基準監督署へ提出しておく必要がありますのでご注意ください。

 

一週間の労働時間の原則は1週40時間、1日8時間ですが、変形労働時間制度の導入でより柔軟な運用も可能です。また、営業などの直帰直行型の働き方をする従業員や、テレワークの従業員、デザイナーや開発専門スタッフなど従業員個人の裁量によるところが大きい業務に従事する方にはみなし労働時間制や裁量労働時間制の導入も検討してみてはいかがでしょうか。

パートタイマーに関する労務管理

パートタイマーとは

「短時間労働者の雇用管理等に関する法律」(以下「パートタイム労働法」といいます。)において、パートタイマーとは以下のように定義されています。

1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者

つまり、パートタイマーやアルバイト、嘱託社員などの名称に関係なく、上記に当てはまれば、パートタイム労働法の適用対象になる、というこです。
パートタイマーは会社から見ると、人材不足を比較的簡単に補うことができる、人件費を抑えらることができる、そんなメリットを感じているところが多いのではないでしょうか?逆に人材の定着が進まない、正社員に比べて会社に対する忠誠・責任感が低い、知識・技能が育たない、そんなデメリットもあるようです。

ここでは、パートタイマーに関する労務管理について、気を付けなければならない部分を紹介します。

パートタイマーに関する法律


パートタイマーを取り巻く法律として、正社員同様に労働基準法や労働安全衛生法、労働契約法などの労働関係諸法令がありますが、その中でも特に2つ紹介したいと思います。

パートタイム労働法

会社は、パートタイマーに対して、その就業の実態等を考慮して、適正な労働条件の確保、教育訓練の実施、福利厚生の充実その他雇用管理の改善及び通常の労働者への転換の推進に関する措置等を講ずることにより、通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等を図り、そのパートタイマーが有する能力を十分に発揮することができるよう努めなければなりません。

なかでも正社員と①職務の内容が同じ、②人材の活用の仕組みが同じパートタイマーに関しては、賃金、教育訓練、福利厚生施設の利用をはじめ全ての待遇において正社員との差別的取扱いが禁止されています。
その他、労働条件通知書の書面での明示に関しても、正社員に求められるものに加え、「昇給の有無」「賞与の有無」「退職手当の有無」「相談窓口」が追加されていますので注意が必要です。

有期契約法

労働契約法第18条において、「有期労働契約が少なくとも1回以上更新され、通算契約期間が5年を超える従業員が、現に締結している契約期間の満了日までに無期労働契約の申し込みをした場合には、会社は自動的にその申込みを承諾をした、とみなす制度、無期転換ルールが盛り込まれました。
例えば、パートタイマーを1年契約で雇用し、更新を重ねて5年目を迎えたときに、パートタイマーから「無期契約にしてほしい」と要望があった場合には、自動的に期間の定めのない雇用契約となることをルール化したものです。賃金やその他の待遇についての労働条件は同一ですが、期間満了に伴う雇止めはできなくなります。

 

パートタイマーの就業規則


正社員の雇用契約書締結や就業規則の整備を図る一方でパートタイマー用の就業規則の整備はいかがでしょうか?就業規則にパートタイマーの適用がない、もしくは「パートタイマー就業規則による」としたものの該当する規程がない、なんてことはないでしょうか?

正社員とは労働時間や賃金等の内容も異なる場合は、やはりパートタイマー用の就業規則が必要です。正社員登用制度などもパートタイマー独自の規定と言えます。パートタイマーの中には、正社員並みに能力の高い人もいますし、少子化の影響から今後人材の確保がますます難しくなっていくでしょう。雇用環境を整備し、よりよい人材を確保する為にもパートタイム就業規則の整備は必須といっても過言ではありません。

「多様な働き方」~限定正社員制度~

短時間正社員、職務限定正社員、勤務地限定正社員など…仕事や育児・介護の両立、またワークライフバランスが叫ばれる中、「多様な働き方」を背景に登場した限定正社員制度ですが、まだまだ発展途上の分野です。しかし、優秀な人材の獲得や従業員の定着率の向上、採用コストや教育訓練コストの削減、従業員のモチベーションアップ、外部に対するイメージアップといった様々なメリットがあります。「パートタイマーとして優秀なのでもったいないが、正社員となると人件費や能力が心配…」というような場合にも、限定正社員制度を一つのクッションとして導入するとよいかもしれません。

 

多様な正社員制度の導入

平成26年7月、厚生労働省より『「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会報告書』が発表されました。報告書において、今後「正社員」と、派遣・契約社員・パートタイマー等の「非正規雇用の労働者」の働き方の二極化を緩和し、労働者一人ひとりのワーク・ライフ・バランスと、企業による優秀な人材の確保や定着を実現するため、職務や勤務地、労働時間を限定した「多様な正社員」を労使双方にとって望ましい形で普及させる、と取りまとめられています。

多様な正社員とは…


一般に「正社員」とは、

期間の定めのない雇用契約で、
所定労働時間がフルタイムであり、
直接雇用される者

をいいます。「多様な正社員」とは、従来の正社員と比べて、転勤や配置の転換、仕事の内容や勤務時間などが正社員に比べて限定されている正社員のことを言い、限定正社員、ジョブ型正社員などと呼ばれることもあります。多様な正社員の活用は、下記の3つのケースが考えられます。

  1. 「職務地限定正社員」
    勤務地が、他の正社員と比べ限定されている正社員のことです。例えば、勤務地を一つの事業場に限定したり、自宅から通える圏内に事業場を限定されていたり、同一市町村や都道府県など勤務地域が限定されている、などが挙げられます。
    育児や介護などの事情で転勤が難しい者や、多店舗展開をするサービス業での地域のニーズに合ったサービス提供や顧客の確保をするために活用することが想定されています。
  2. 「職務限定正社員」
    職務の内容が、他の正社員と比べて限定されている正社員のことです。例えば販売職として商品の販売業務のみに限定させたり、事務職として経理のみの業務に限定したり、と会社の職務を区分したうえで、職務内容が固定されている正社員と言えます。金融やITなど、高度で専門的なキャリア形成が必要な職務で、プロフェッショナルとしてキャリア展開していく者や、資格が必要とされる職務で、他の職務と明確に区分できる職務を行う者を育成する場合などに活用されます。
  3. 「短時間正社員」
    所定労働時間や労働日数が正社員に比べて短い正社員のことです。例えば1日の所定労働時間8時間の会社で、1日6時間勤務の社員などがこれにあたります。その他週や月、年の所定労働時間や労働日数を限定する者や時間外労働が免除されている者も短時間正社員と言えます。育児や介護などで長時間の勤務が難しい者について離職を防止し定着させるなど、ライフスタイル・ライフステージに応じた様々な働き方に対応し、人材の定着を図る目的等で活用されます。
    短時間正社員制度については、厚生労働省において制度導入のための支援ナビを開設しています。

厚生労働省「短時間正社員制度支援ナビ」についてはこちら

雇用管理上の注意点


労働条件の明示・就業規則の整備

雇用契約において労働条件を書面で明示することが求められていますが、その際に「勤務地」や「職務内容」の限定の内容についてはっきりと明示しておくことが、その後の労使間トラブルの未然防止につながります。これによって労働者にとってもキャリア形成の見通しや、ワーク・ライフ・バランスの実現が容易になり、働きやすい職場の提供によって優秀な人材の確保につながるります。
その他、対象従業員に適用される就業規則を整備する必要があります。

転換制度の設定

契約社員やパートタイマーなどの非正規雇用から多様な正社員への転換制度などを設けることによって、雇用の安定を図り、労働者のモチベーションアップやキャリアアップにつなげることができます。正社員として登用するには人件費や要員計画等の観点からすぐには難しい場合でも「多様な正社員」という制度を設けることは優秀な人材の流出を防ぐことにもつながるでしょう。

また、正社員と多様な正社員の間の転換制度を設けることも有益です。例えば、正社員として登用されていたが、出産・育児のためフルタイムの勤務が難しくなった場合など、一旦短時間正社員へ転換することで、労働者のワーク・ライフ・バランスの実現やモチベーション維持につなげることができます。

ただし、転換制度の活用促進や労使の紛争防止のため、転換の規定を就業規則等に明示し、社内制度として明確にすることが望まれます。また転換は重要な労働条件の変更になりますので、転換時には必ず労働者本人の同意を得ることも必要です。なお、転換制度を導入し、実際に従業員に対し転換制度を適用した場合は雇用関係の助成金の対象となる場合があります。

均等処遇の確保

「正社員」と「多様な正社員」との双方に不公平感を与えず、またモチベーション維持のため賃金水準、昇進・昇格等の処遇の均衡を図ることが望まれます。例えば「短時間正社員」の場合、正社員と職務内容や責任の度合いが同じであるならば、時間換算した賃金は同等であることが良いでしょう。その他勤務地や職務などの限定の仕方は各社各様のため、どのように処遇均衡を図るかについては、労使で十分に話し合うことが必要です。

制度設計・導入・運用に当たって理解を得るための活動

多様な正社員制度が円滑に導入・運用できるよう、制度の設計に当たっては、労働者に対する十分な情報提供と協議を経て理解を得ることが大切です。また制度運用にあたっては、様々な労働者の利益が損なわれないよう、労使のコミュニケーションを密にすることも重要です。


労働者のワーク・ライフ・バランスの実現が叫ばれるなか、大企業では徐々に「多様な正社員制度」が浸透しつつあります。労働環境の向上は、労働者本人のキャリアアップやモチベーションアップ、企業にとっては優秀な人材の確保や定着につながります。ぜひ「多様な正社員制度」の検討をしてみてはいかがでしょうか?

給与計算、賞与計算

給与計算


雇用契約に基づき、毎月支払われるのが賃金、いわゆる「給与」です。
給与、と、ひと口に言っても、基本給の他にも家族手当、通勤手当、住宅手当等の各種諸手当、時間外や休日・深夜の労働に応じて時間外・休日・深夜割増手当を加算しなくてはなりません。逆に毎月の給与から控除するものとして、月々の雇用保険料、健康保険料や厚生年金保険料、介護保険料、そして所得税や住民税などがあり、その計算を経て決定した額を従業員に支払わなければなりません。

基本給、諸手当、時間外・休日・深夜労働の手当

基本給や諸手当は、雇用契約書や給与規程・就業規則に基づいて支払われるものです。子どもが誕生したり、転居をして交通手段が変わったり等で変更が生じる場合がありますので、都度従業員に正しく申告してもらわなければなりません。通勤手当に関しては、非課税なのか、課税なのかを判断する必要もあります。

時間外・休日労働・深夜労働の手当については、給与規程・就業規則、それらに規定がない場合であっても法令に即した形で割増しなくてはなりません(労働基準法第37条)。時間外・休日労働の計算にあっては時間単価にそれぞれの割増率を乗じた計算となりますが、その時間単価の算出も重要になります。給与規程・就業規則に計算式を明示しておくことで、効率的な給与計算が可能となり、また公平性を保つこともできます。

社会保険料の控除

給与の総額が決まったら雇用保険料と、健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料などの社会保険料の控除を行います。健康保険料や厚生年金保険料は標準報酬に応じた額となり毎月の変動はありませんが、育児休業からの復帰や昇給・降給等によって保険料の変更の可能性はないか、年齢による介護保険の対象・非対象の可能性、などを確認しなければなりません。また、被保険者ではない人から控除していないか、注意する必要があります。

なお、会社が保険料を納付するタイミングですが、健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料については当月分が翌月末日に、雇用保険料については毎年の年度更新で計算、納付することになります。

源泉所得税、住民税の控除

もう一つ控除しなければならないのが源泉所得税と住民税です。従業員の所得税については会社に源泉する義務がありますので、毎年国税庁から公表される源泉徴収税額表をもとに控除する必要があります。
控除する際に気を付けなければならないのが通勤手当。課税なのか、非課税なのかを確認しましょう。
住民税に関しては特別徴収と普通徴収があり、特別徴収の場合は毎年市町村より会社に各々の控除額が送られてきますのでそれに基づいて計算します(普通徴収の場合は従業員自身で納付します)。
所得税と住民税の従業員からの徴収分は原則として当月分を翌月10日にそれぞれ納付します。

有休管理は給与計算と同時に行いましょう。

給与計算時には、勤怠日数や有休日数の確認も行いますので、有休の管理は給与計算と同時に行なうのが効率的です。
その際には、有休管理簿や給与計算ソフトによるなどして、事務負担の少ない方法で管理するのがよいでしょう。

 

賞与計算


「よくがんばってくれたから」「会社の業績がよかったから」…支給理由は様々。毎月の給与とは別に、「賞与」、いわゆるボーナスを支給する会社もなかにはあることでしょう。賞与についても、給与同様、雇用保険料、健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料、そして所得税を控除しなくてはなりません。

雇用保険料の計算については、給与と同じですが、健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料については、標準報酬月額からの計算ではなく、ボーナスの額に保険料率をかけて計算した額になります。また源泉所得税については、前月に支給された給与を元に、源泉徴収税額表をみて算出することになります。

 

健康保険料・厚生年金保険料にはそれぞれ上限があります。

健康保険料の計算の元となる標準賞与額は年間をとおして573万円が上限となります。また厚生年金保険料の計算の元となる標準賞与額は1回あたり150万円が上限となります。


上記のように、従業員の給与計算は、毎月1人ひとりの時間管理や社会保険料変更の可能性を考慮しつつ行なわなければなりません。時間外労働が生じれば、これもまた1人ひとりの単価を算出した上で正確に割増賃金を計算しなければなりません。変形労働時間制を採用していれば計算はさらに複雑です。
また、「休業中の従業員の給与はどう取り扱えばよいのか」「固定残業手当を導入している場合の計算方法は?」「振替と代休の違いが分からなくて行き詰まった」など、給与計算をするにあたって生じる問題は様々あります。
従業員のモチベーションや信頼低下につながらないためにも、従業員の生活に欠かせない毎月の給与でミスが発生しないよう心がける必要があるでしょう。

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