労働安全衛生法(ストレスチェック制度)【平成27年12月1日施行】

ストレスチェック制度

平成26年6月に改正された労働安全衛生法は、「規制・届出の見直し」「受動喫煙防止対策の推進」等順次施行され、いよいよ本年12月、ストレスチェック制度がスタートします。今回はその中身についてご紹介したいと思います。

…と、その前に
労働安全衛生法に規定する「安全衛生管理体制」の項目を少しおさらいしましょう。

  1. 「事業者は、常時50人以上の労働者を使用する事業場ごとに、医師のうちから産業医を選任し、その者に労働者の健康管理その他厚生労働省令で定める事項(労働者の健康管理等)を行わせなければならない」(法第13条1項)
  2. 「事業者は、政令で定める規模の事業場(常時50人以上)ごとに、次の事項を調査審議させ、事業者に対し意見を述べさせるため、衛生委員会を設けなければならない」(法第18条)

つまり、常時50人以上の労働者が働いている会社は産業医を選任し、また衛生委員会を設置しなければなりません。なお、これらについては「業種問わず」、となっています。

上記を踏まえた上で、ストレスチェック制度の中身へ戻りましょう。

 

ストレスチェック制度の目的


近年、職場の人間関係の問題や仕事の質・内容に関して強い不安や悩み、ストレスを感じている労働者が増加しています。厚生労働省の調査によれば、労働者の5割の人は何らかのストレスを抱えているというデータも出ています。また、これに呼応するように精神障害を原因とする労災の認定も年々増加しており、メンタルヘルス不調を未然に防止することが重要な課題となっています。

こうした背景を元に平成26年6月、労働安全衛生法の改正が行われ、「心理的な負担の程度を把握するための検査及びその結果に基づく面接指導の実施を事業者に義務づけること等」を内容としたストレスチェック制度が新たに創設されました。

事業主による労働者のメンタルヘルスケアは取組ごとに3段階に分けられます。メンタルヘルス不調を未然に防止するための「一次予防」、早期発見し適切な対応を行う「二次予防」、そして実際にメンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰を支援する「三次予防」に分けられいますが、ストレスチェック制度は「一次予防」の強化として導入されるものです。

定期的に労働者のストレスの状況を検査し本人に結果を通知することで自らのストレス状況を把握してもらうこと、そしてストレスチェックの結果を職場や部署単位などカテゴリに分けて集計・分析することで、メンタルヘルス不調者を減少できるよう職場の環境改善に役立てよう、というものです。

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対象となる事業場、従業員は…

ストレスチェック制度の実施が義務付けられている会社は、労働者数50人以上の規模の事業場となっており、50人未満の事業場については当分の間は努力義務とされています。また対象となる従業員ですが、正社員はもちろん、契約社員でも1年以上の雇用が見込まれるもの、1週間の労働時間が正社員の4分の3以上のパートタイマー等も含みます(一般定期健康診断の対象者と同様です)。

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まず、何から始めるの?

ストレスチェック制度についての「事業者による方針の表明」からスタートします。具体的には、衛生委員会等において、制度の目的、実施体制、実施方法、集計・分析方法など運用の方法を審議・調査し、規定した上で労働者に周知します。個々のメンタルに関するデータというのは非常にデリケートなものですので、個人情報保護の対応も含め、制度の円滑な運営のための体制作りが望まれます。

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誰が実施するの?いつ実施するの?

ストレスチェックの実施者は、医師、保健師、厚生労働省が実施する研修を修了した看護師又は精神保健福祉士に限られますが、事業場において選任されている産業医が実施者となるのが一番望ましいとされています。その他、ストレスチェック後の個人のデータを入力する者や個人の調査票を回収する者を実施者とは別に「実施事務従事者」と呼びますが、人事権などを持つ者(監督的地位にある者)については、実施事務従事者となることができません。個々のストレスチェックの結果が人事に影響するような状況は好ましくないからです。

ストレスチェックは1年以内ごとに1回、実施することになります。これは一般定期健康診断と同時にすることも認めてられていますが、労働者にも受診義務を課す健康診断とは違い、ストレスチェックは受診義務がありません。労働者個人が受診を選択できることになっています。ただし、ストレスチェック制度を効果的なものとするためには、より多くの労働者が受診し、データの収集・分析することで職場環境の改善につながること、個人のストレスチェックの結果は産業医等の実施者から直接労働者個人に通知されること等伝えることで労働者が安心して前向きに受診できる環境を作ることも大切です。

※労働者個人別のストレスチェック結果を個人の同意なく事前に事業主が確認することはできません。また、ストレスチェックの実施前や実施時に結果を報告すること等の同意を取得することは禁止されています。

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チェックの方法は?

ストレスチェックの調査票を用いて3つの領域を調査します。

  1. 仕事のストレス要因:職場における労働者の心理的な負担の原因に関する項目
  2. 心身のストレス反応:心理的な負担による心身の自覚障害に関する項目
  3. 周囲のサポート:職場における他の労働者による支援に関する項目

職業性ストレス簡易調査票

「職業性ストレス簡易調査票」の項目(厚生労働省のページより引用)

厚生労働省のページには「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」が掲載されていますが、これによれば、Aの部分が「仕事のストレス要因」、Bの部分が「心身のストレス反応」、そしてCの部分が「周囲のサポート」に当たります。このチェックデータを数値化し、結果を産業医等の実施者から直接労働者本人へ通知します。先の衛生委員会等の審議の中で決定した基準によって、高ストレス者と選定された者には結果と共に、「医師による面接指導」を受けるよう通知されることになります。また、この数値化されたデータを職場や部署単位ごとに集計・分析し、事業主は職場環境の改善に活用することができます。

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面接指導とは…?

ストレスチェックの結果、高ストレス者として選定され、結果と共に「医師による面接指導」を受けるよう通知された労働者は、事業主に対し、面接指導を受ける旨申出をします。この場合、事業主は遅滞なく面接指導が受けられるよう手配しなくてはなりません。原則として医師が対面で行うことが必要とされていますので、この場合も産業医にお任せするのがよいでしょう。なお、医師が人事部や労務担当者から対象労働者の業務内容や、労働時間、労働日数等の情報を参考として聴収することがあります。

面接指導においてはストレスチェックの結果や上記の情報を元に、医師が労働者に対して、保健指導(ストレス対処技術の指導やセルフケア)、受診指導(必要に応じて専門機関への受診の勧奨など)を行います。なお、医師による面接指導の費用は事業主が負担すべきものとされています。

面談指導後、事業主は遅滞なく面接指導をした医師より意見を聴収し、必要があると認めたときは該当労働者の状況を勘案し、就業場所の変更や作業の転換、労働時間の短縮、深夜業回数減少などの措置を講じなければなりません。

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ストレスチェックの結果に基づく集団ごとの集計・分析と職場環境の改善(努力義務)

一次予防を主な目的とする制度の趣旨を踏まえ、労働者本人のセルフケアを進めるとともに、職場環境の改善に取り組むことが重要です。ストレスチェックの結果を職場や部署単位で集計・分析をすることで高ストレス者の多い部署が明らかになります。この結果、当該部署の業務内容や労働時間などの他の情報と合わせて評価し、事業場や部署として仕事の質・量の負担が高かったり、周囲からの社会的支援が低かったり、職場の健康リスクが高い場合は改善が必要と考えられます。この措置は努力義務とされていますが、職場のストレス低減のためできるだけ実施することをお勧めします。

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労働基準監督署への報告

事業者は、面接指導の実施後に、ストレスチェックと面接指導の実施状況を所定の様式を用いて所轄の労働基準監督署に報告します。なお、報告書の提出時期は、事業年度の終了後など、事業場ごとに設定しても問題ありません。

《その他のポイント》

  • 一般健康診断の結果は5年間の保存義務がありますが、ストレスチェック制度においても、実施者から提供された結果や面接指導の結果、集団分析の結果などについて5年間の保存義務があります。
  • 50人未満の小規模事業場においては当分の間努力義務とされていますが、産業医の選任や衛生委員会の設置が義務付けられていないことから都道府県ごとに設置されている産業保健総合支援センターや地域窓口である地域産業保健センターを活用して取り組むことになります。なお、ストレスチェック制度や面接指導を実施した場合の費用を助成する制度が設けられる予定です(平成27年6月頃)。

最後に…

ストレスチェック制度のフローチャート

ストレスチェック制度フローチャート(厚生労働省のページより引用)

厚生労働省が出しているストレスチェック制度のフローチャートを掲載します。解説と合わせて活用されるとよいでしょう。

ストレスというのはあまり自覚がなく、また周りに指摘されてもなかなか認めたがらない人が多いものです。しかしながらストレスを抱えて仕事を続けると、効率は低下するばかりで、普段では考えられないミスなどを起こしてしまう可能性もあります。その結果、上司の叱責を受けたり、悩んだりして、ますますストレスが蓄積する、そんな悪循環がメンタルヘルス不調を招き、最終的にはうつ病等の精神疾患に陥ってしまいます。

ストレスチェック制度は医学的見地より客観的に行われますので、労働者の気づきを促すには説得力もあり、効果的です。制度を活用することで、労働者個人のメンタルヘルス不調を未然に防止するとともに職場からメンタルヘルス不調者を減らすための環境改善に役立て、活気ある職場づくりを目指しましょう。

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